京都地方裁判所 昭和60年(ワ)840号 判決 1986年8月28日
原告
中川由美
被告
小森孝浩
主文
一 被告は原告に対し、金二五一万八二九八円及びこれに対する昭和五八年五月二一日以降支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用はこれを四分し、その三を原告、その余を被告の負担とする。
四 この判決は第一項に限り、仮に執行することができる。
事実
第一申立
一 原告
1 被告は原告に対し、金一〇二七万〇〇一九円及びこれに対する昭和五八年五月二一日以降支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 仮執行宣言
二 被告
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二主張
一 請求原因
1 事故の発生
(一) 日時
昭和五八年五月二一日午後七時四三分頃
(二) 場所
京都市山科区大宅甲ノ辻町一一番地先交差点(旧奈良街道)
(三) 態様
南進していた被告運転の原動機付自転車(京都市伏は八七四八、以下「被告車」という。)が、交差点に入る手前三〇メートルよりも前から右折の合図をしなければならないのにこれを怠り、直前になつて右折の合図をしながら、右交差点内に停車していた北行右折車の前方を急右折して進行し、折から同交差点を北進中の原告運転の原動機付自転車(京都市伏八九七八、以下「原告車」という。)を看過して、その進路前方に飛び出して来たため、原告としてはそれを予見して回避措置をとることができず、被告車が原告車と側面衝突した。
2 被告の責任
被告には直進車優先違反、安全確認義務違反及び合図義務違反により進行した過失があり、民法七〇九条の規定に基づき、本件事故によつて生じた損害を賠償すべき責任がある。
3 原告の受傷と治療経過
原告は本件事故により地面に叩きつけられ、頸推捻挫、頭部外傷Ⅱ型、全身打撲挫創の傷害を負い、昭和五八年五月二一日から同年六月一〇日まで二一日間京都市伏見区内の武田病院に入院、同月一一日から翌五九年八月二四日まで実治療日数九三日、同病院に通院した。そして原告は、左顔面、左手関節及び左肩の醜状障害により自賠法施行令別表後遺障害等級一二級一四号の認定を受けた。
なお、原告は、右のほか歯にも異常が生じていたのであるが、武田病院での最初のレントゲン写真ではその点がよく判らず、二度の時は機械が故障していて発見できなかつた。しかし、原告は、現に歯の痛みを感じており、治療の必要性がある。
4 損害
(一) 治療費 九九万六七四五円
(二) 入院雑費 二万一〇〇〇円
一日一〇〇〇円の割合により入院二一日分
(三) 交通費 三万五一二〇円
(1) タクシー代 一万一二〇〇円
(2) バス代 二万三九二〇円
(四) 歯科治療費 二一万八六〇〇円
(1) 破折治療費 二一万五〇〇〇円
(2) 診断書 二〇〇〇円
(3) 初診料 一六〇〇円
(五) 事故証明代 五〇〇円
(六) 休業損害 三三九万八一九九円
原告は、本件事故により少なくとも症状固定時まで、波状的に襲われる頭痛、頸部痛、眼精疲労、めまい及び記憶力低下に悩まされて、就労不能の状態にあり、昭和五八年五月二二日から同年七月二〇日までの六〇日間と、同年八月二一日から同五九年七月二〇日までの三三一日間、勤務先の武田病院への欠勤を余儀なくされ、その間、給与を支給されなかつた。もつとも、入通院日数が比較的少ないのは、入通院が勤務先病院であつたため、病院側の圧力、同僚に対する気遣い及び周囲の噂などにより抑制されたことや、更に休業損害や治療費が支払われていないことから、無理矢理自粛に追い込まれたことによるもので、入通院の必要性に乏しかつたことによるものではない。
そこで、原告の事故前三か月の平均日収は七七三六円であつたから、休業による損害合計額は三〇二万四七七六円である。
なお、右の休業に伴い、三七万三四二三円のボーナス減額がなされ、同額の損害を被つた。
(七) 逸失利益 三一四万〇七三五円
原告は、前叙の如く後遺障害等級一二級一四号の醜状障害を認定されているので、労働能力の喪失率は一四パーセントであり、喪失期間は、控え目にみても症状固定の日から一〇年間である。そこで、平均日収七七三六円を基礎数値とし、一〇年のホフマン係数七・九四五をもちいて逸失利益の現価を算出すると、三一四万〇七三五円となる。
(八) 慰藉料 五三五万円
(1) 入通院分
事故から症状固定まで約一年三ケ月を要し、その間入院二一日、通院実治療九三日を要したのであり、慰藉料として一三五万円が相当である。
(2) 後遺症分
原告は、前記醜状障害及び頭部、頸部の局所の神経症状の後遺症に悩まされている。殊に、顔面の額・頬の部分に線状痕が残つたため、前髪を垂らし、化粧を厚くして隠す工夫をしなければならなくなつている。神経症状については、眉毛が寒くなると動かなくなり、目が見えなくなつたり、根気がなくなつたり、更に、肩がつまつてきたりしている。原告は、本件事故当時二五歳の未婚の女性であつて、患者らとの応対が頻繁にある看護婦という職業にあつたところ、顔面に右醜状痕が残つたのであるから、ない場合と比して収入が相当程度減少することが見込まれる。のみならず、原告の精神的苦痛・負担は、右の後遺症によつて増大しており、また一生醜状・障害を背負つて生きていくことから、通常の場合よりも高額の慰藉料が認定されるべきである。この見地からすると、慰藉料額は四〇〇万円が相当である。
(九) 物損(バイク代) 二万九四〇〇円
(一〇) 弁護士費用 七〇万円
原告は本訴に先立つ示談交渉および本訴を原告代理人に依頼した。それらの費用は七〇万円が相当である。
(一一) まとめ
以上の損害合計額は一三八九万二九九円であるところ、一五三万〇二八〇円の弁済を受け、また自賠責保険から二〇九万円の給付を受けたから、これらを差引くと残損害額は一〇二七万〇〇一九円となる。
5 結論
よつて、原告は被告に対し、損害金一〇二七万〇〇一九円及び同金員につき履行期到来の日である昭和五八年五月二一日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 答弁
1 請求原因1の事故の発生のうち、被告車が突然に右折の合図をしながら急右折したとの点を否認し、その余の事実は認める。
2 同2の責任原因事実を否認する。
3 同3の原告の受傷と治療経過のうち、入通院期間及び後遺障害等級の認定の点は認める。
原告が本件事故により被つた傷病名は、全身打撲、顔面・両上下肢各挫傷、外傷性頸部症候群である。原告主張の頭部外傷Ⅱ型という傷病名は、昭和五九年二月一四日の脳神経外科初診の際に付されたものであるが、検査の結果では異常がなかつた。また、外傷性頸部症候群についても、昭和五八年八月以降単に頭がぼやつとするという自覚症状が存するだけであり、ジヤクソンテスト・イートンテストとも異常がなく、運動制限や腱反射等にも特に異常なく、他覚所見に乏しい。それに対する治療も、漫然と物療を継続している状態である。しかも、その物療も、同年九月にはまつたく行われておらず、後遺症の査定の対象になつていない。次に、顔面挫傷についても、昭和五八年八月以降一切治療のないことよりみて、同年七月末に症状固定していることがうかがわれる。以上によれば、昭和五八年九月以降は、本件事故による傷病の治療期間としての相当性がない。
なお、原告が主張する歯の異常についてであるが、事故直後の武田病院歯科の診断は、「亜脱臼、特に処置は不要です。今後歯髄壊死を認める場合には、抜髄が必要です」とのことであつた。すくなくとも、「機械が故障していて発見できなかつた」という原告の主張は、常識的にも措信しがたい。
4 同4の損害のうち、歯科関係を除く治療費及び物損の額、一部弁済及び損益相殺による控除額は、いずれも認めるが、休業損害、慰藉料の各算定期間及び逸失利益を否認し、その余は知らない。
まず、原告の損害算定に当つては、昭和五八年八月三一日までを要治療・要休業期間とすべきである。次に、原告には、労働能力喪失による逸失利益損害は存在しない。
原告は、武田病院より顔貌醜状を理由に就業を拒否されたこともなく、同病院を退職したのは、症状固定前の昭和五九年六月に事実の婚姻をしており、「妊娠していたからである」。また、現在就業していないのは、顔貌醜状を理由に就職できないのではなく、一人の子をかかえ、単に自己の意思で主婦専業をしているためである。今後、他の病院に看護婦見習として就職するに際し、いうところの顔貌醜状が支障となるとは考えられず、もとより労働能力に影響を及ぼすことはない。したがつて、精神的苦痛もそれほど大きなものではない。
三 過失相殺の抗弁
原告は、交通整理の行われていない本件交差点内において、減速せず、漫然と時速約三〇キロメートルで進行し、かつ前方を十分注視していなかつたため、南進していた被告車両が右折の合図をしながら、時速約五キロメートルのゆつくりした速度で右折するのに気づかず、同車両に衝突したものである。もし、原告が交差点で徐行しかつ前方を十分注視していたなら、明らかに本件衝突は回避できたのである。
よつて、原告には少なくとも三割の過失が存する。
四 抗弁に対する答弁
事故の経緯は、請求原因1の事故の態様の項で主張したとおりで、原告に過失はない。
第三証拠
本件記録中の証拠関係目録のとおりであるから、それを引用する。
理由
一 昭和五八年五月二一日午後七時四三分頃、京都市山科区大宅甲ノ辻町一一番地先交差点(奈良街道)において、南進していた被告車が同交差点内に停止していた北行右折車の前方を右折進行したところ、同交差点を北進中の原告車と側面衝突したこと、以上の事実は当事者間に争いがなく、いずれも成立に争いのない乙第三ないし第七号証、同第九号証、原告及び被告各本人尋問結果(後記措信しない部分を除く)を総合すると、次の事実を認めることができる。
1 本件交差点は、いずれも平垣でアスフアルト舗装された南北に通ずる旧奈良街道と南々西から北々東に延びる道路が交わるやや変形の十字路であつて、交通整理が行われておらず、また右折につき道路標識等により通行すべき部分が指定されていない。しかし、最高時速四〇キロメートルの交通規制がなされており、南北道路の見とおしは良好であつた。
2 被告は、ヘツドライトを点灯した被告車を運転し、本件交差点で右折西進すべく道路中央寄りを南進して同交差点に入り、速力を緩めながら停車していた対向右折車の前方で右折すべく進行していたところ、該対向右折車のすぐ西側をヘツドライトを点灯し時速約三〇キロメートルで北進中の原告車を約六メートルの至近距離に発見し、衝突を回避するためハンドルを左に切つたものの時すでに遅く、原告車右側面に被告車左側面を衝突させた。もつとも、被告は、両足で支えて停止して転倒を免れたが、原告は約五・九〇メートル、原告車は、約四・四〇メートル北方に転倒して停止した。なお、右衝突当時、本件交差点周辺には、原・被告車及び対向右折車以外に車両はみられなかつた。
以上の事実を認めることができ、この認定に反する原・被告各本人の供述部分は措信できず、他に右認定を覆すに足る証拠はない。
ところで、前掲乙第五、第六号証、同第九号証、被告本人尋問の結果によると、被告は、交差点に進入する直前頃に右折の合図を始めたというのである。しかし、右に認定した対向右折車が交差点内に停車していたのは、被告車との関係を除いて理解することが困難であり、すくなくとも被告車を直進車と把握したうえでの停車待ちの公算が大であり、このことと前掲乙第七号証に、原告本人尋問の結果を総合すると、被告は、すくなくとも右折開始の直前まで右折の合図をしなかつたと認めるのが相当であり、これに反する前掲各証拠は採用できない。
二 以上の認定事実によれば、被告は、本件交差点において右折進行するに際し、早期になすべき右折の合図を懈怠したうえ、対向直進車の動向を看過したため、本件事故を惹起したのであるから、民法七〇九条の規定に基づく責任があるといわなければならない。
三 原告が本件事故により、京都市伏見区内の武田病院に事故当日の昭和五八年五月二一日から同年六月一〇日まで二一日入院し、同月一一日から翌五九年八月二四日まで実治療日数九三日同病院に通院したこと、そして、原告が左顔面、左手関節及び左肩の醜状障害により、自賠法施行令別表後遺障害等級一二級一四号の認定を受けたことは、当事者間に争いがなく、いずれも成立に争いのない甲第二号証、同第八号証、乙第八号証、同第一〇号証、同第一二号証、同第一四号証、同第一六号証、同第一八号証、同第二〇号証、同第二二号証、同第二四号証、同第二六号証、同第二八号証、同第三二、同第三三号証、原告本人尋問の結果により真正に成立したと認める甲第四、第五号証に原告本人尋問の結果(後記措信しない部分を除く)を総合すると、次の事実を認めることができる。
1 原告(昭和三三年四月一八日生)は、本件事故当時、武田病院の看護婦として勤務していたのであるが、本件事故により右病院に収容され、全身打撲、顔面、両側上・下肢挫傷及び外傷性頸部症候群と診断されて、経過観察のため入院となり、前叙二一日間入院治療を受けた。
右入院の間にほぼ持続した原告の愁訴は、頭・頸部痛であり、ほかに五月二六・七日頃まで歯痛を訴えた。原告の愁訴については、諸検査がなされているところ、左上第一歯につき亜脱臼がみられるも、処置不要との検査結果がある以外に、格別の異常は認められなかった。そして、整形科の医師は、六月八日、二週間ほど通院してリハビリを行い、職場に復帰して貰う旨の予定を明らかにした。
2 ところが、原告は右病院に、同年六月一一日から同年七月三一日までの間に三一日、同年八月中に一一日、同年九月中に一日、同年一〇月中に六日、同年一一、一二月中に各五日、翌五九年一月中に一〇日、同年二月中に一七日、同年三月中に六日、以上合計九二日通院して治療を受け、同年八月二四日に通院して自賠責保険後遺障害診断書を作成して貰つているところ、医師は、右の八月二四日をもつて症状固定とし、後遺障害の内容につき、主訴又は自覚症状として頭痛、頸部痛、眼精疲労、眩暈等、季節の変り目、天候不順時に頭痛強度となり、嘔気、嘔吐を伴うことがある旨、他覚症状及び検査結果として運動制限、腱反射等に特に異常を認めず、左顔面、左手関節、左肩に醜状痕を残す旨を挙げ、更に頭部、頸部の局所に神経症状を残すため、重労働、長時間労働は不可能で、回復には相当長期間を要すると思われると診断した。ところで、通院中の治療の内容であるが、昭和五八年八月以降は殆ど原告の愁訴への対症療法として。いわゆる物療がなされているだけである。
なお、原告は、通院治療中の昭和五八年七月二一日から同年八月二〇日まで復職したものの、記憶力の低下とか、腰痛、頭痛などを訴え、再び休職した。
3 原告は、昭和五八年七月一八日、伏見区石田森東町所在の石田歯科医院で、左上第一歯の咬合痛を訴えて受診したところ、大きな外力によると思われる歯牙破折(歯根尖部から六ミリメートル位の箇所がほぼ水平に破折線を示す)していることが判明した。
以上の事実を認めることができ、この認定に反する原告本人の供述部分は採用できず、他に右認定を動かすに足る証拠はない。
右認定事実によれば、昭和五八年八月以降の原告の症状は、心因的要素の強いものであることは否定できないものの、なお本件事故による症状と把握すべきである。もつとも、その治療経過に鑑みると、武田病院の医師が昭和五九年八月二四日をもつて症状固定と診断したのは首肯できず、遅くとも同年二月末日には症状固定の域に達したと解するのが相当であり、また前同医師が頭部、頸部の局所に残す神経症状のため、重労働、長時間労働は不可能で、回復に長期間を要すると診断した点についても、いうところの重労働、長時間労働の実体が明らかでないうえ、診断としての客観性に乏しいといわざるを得ないのであつて、損害の算定に当り右の診断をそのまま前提にすることはできないというべきである。
四 そこで、原告が被つた損害について検討する。
1 治療費(歯科関係を除く)及び物損(バイク代)
原告が、歯科関係を除く治療費として九九万六七四五円を要し、また二万九四〇〇円の物損を被つたことは、当事者間に争いがない。
2 入院雑費
前認定の入院二一日につき、一日一〇〇〇円の割合による雑費合計二万一〇〇〇円を要したと認める。
3 交通費
いずれも成立に争いのない甲第三号証の一ないし一二に、原告本人尋問の結果を総合すると、原告が竹田病院へ通院するにつき、身体の調子の悪い時はタクシーを利用し、それ以外はバスを利用したこと、タクシー代は一二回分合計一万一二〇〇円、バス代は片道一二〇円であつたことがそれぞれ認められ、この認定に反する証拠はない。
そこで、さきに認定説示したところによれば、考慮の対象とすべき通院日数は、昭和五九年二月末日までの八六日であり、そうだとすれば、バスへの乗車回数は一七二回であり、バス代は合計二万〇六四〇円となる。したがつて、通院交通費は三万一八四〇円となる。
4 歯科治療費
さきに認定した事実によれば、本件事故による受傷の一つとして、原告は、当初から左上第一歯につき歯痛を訴えていたこと、この点について武田病院医師と石田歯科医院医師の各診断が存するところ、何故に両者が相違するのか明らかでない。それにしても、後者の診断を排斥するに足る資料も存しないのであるから、これを前提とする。
そこで、前掲甲第五号証、原告本人尋問の結果により真正に成立したと認める甲第六号証、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によると、歯折治療費として二一万五〇〇〇円を要すること、初診料として一六〇〇円、診断書料として二〇〇〇円を要したことが認められ、この認定に反する証拠はない。
したがつて、損害合計額は二一万八六〇〇円となる。
5 事故証明代
いずれも成立に争いのない甲第一号証、同第七号証に、原告本人尋問の結果によると、原告が昭和五八年七月一一日、自動車安全運転センター京都府事務所から交通事故証明書一通の交付を受けるにつき五〇〇円を要したことが認められ、この認定に反する証拠はない。
したがつて、同額の損害を被つたというべきである。
6 休業損害
前掲甲第八号証、成立に争いのない甲第九号証に、原告本人尋問の結果を総合すると、原告は、昭和五八年五月二二日から同年七月二〇日までの六〇日間と、同年八月二一日から同五九年七月二〇日までの三三一日分、武田病院への勤務を休み、右の五九年七月二〇日限り同病院を退職しているところ、その理由は妊娠であつたこと、原告は勤務を休んだ理由として、頭痛、吐気と左眉毛が動かないことによる精神的動機を挙げていること、そして、原告は、昭和五八年五月二一日から同年一一月二〇日までの査定対象期間に一三二日欠勤したため、昭和五八年冬期分のボーナスが三七万三四二三円減収となつたこと、原告の事故前三か月の平均日収は七七三五円(円未満切捨)であること、以上の事実を認めることができ、この認定に反する証拠はない。
しかしながら、一〇〇パーセント休業を余儀なくされた期間は、昭和五八年一二月末日までの二二四日、昭和五九年一二月の六〇日は平均して五〇パーセントの限度で休業損害を算定するのが相当である。すると休業損害は一九六万四六九〇円となる。そこで、これにボーナス減少分三七万三四二三円を加えると二三三万八一一三円となる。
7 逸失利益
後遺障害等級一二級一四号と認定された原告の外貌の醜状であるが、前掲甲第二号証によると、原告の左前額部から左頬にかけて存する傷痕が主たるものであつて、格別機能上の障害となるものではないし、看護婦という職業を前提として、それに悪影響を及ぼすといつた事態は全くないことが認められ、この認定を動かすに足る証拠はない。
したがつて、主張の後遺症の故に労働能力が左右されることはなく、逸失利益は容認できない。
8 慰藉料
(一) 入通院分
さきに説示した症状固定日までの入通院状況に鑑み、慰藉料額は八五万円をもつて相当と認める。
(二) 後遺症分
後遺症分の慰藉料は二〇九万円をもつて相当と認める。
9 まとめ
以上損害合計額は六五七万六一九八円となるところ、被告において過失相殺の主張をする。さきに認定した本件事故の態様によれば、原告は、交差点を通過するに際し、対向車両の動向に殆ど注意を払つていなかつたことが看取されるのであり、この点に鑑み一〇パーセントの過失相殺をするのが相当である。すると損害額は五九一万八五七八円(円未満切捨)となる。そこで、原告が自認する弁済額一五三万〇二八〇円及び自賠責保険からの給付金二〇九万円を差引くと残損害額は二二九万八二九八円となる。
なお、原告が本訴の提起・追行を弁護士に委任していることは明らかであるところ、それに要する費用のうち二二万円の限度で、本件事故と相当因果関係のある損害と認める。
五 以上の次第であるから、被告は原告に対し、損害金二五一万八二九八円及びこれに対する本件事故の日である昭和五八年五月二一日以降支払済みに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払義務を負担しているというべく、この限度で原告の本訴請求は理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却する。
よつて、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、仮執行宣言につき同法一九六条を各適用のうえ、主文のとおり判決する。
(裁判官 石田眞)